フルエール代表の思い

「伝わる新聞」で新たなつながりを生み出したい

フルエール合同会社
代表 安倍大資

新聞記者時代に感じた「自分の言葉」と「他人の言葉」

ーーなぜ個人向けの新聞制作を始めたのですか?

 日本経済新聞の記者として12年働く中で「思いを伝わる言葉にする」ことに大きな価値があると思ったからです。「なぜこの仕事をしているのか」をきちんと言葉にできている人は、周りに人が集まってきますし、共感され、応援される存在になることを取材を通じて知りました。

同時に、自分の仕事を自分の言葉で語れない人はとても多いことに気づきました。どんなに立派な社長、政治家、役所の幹部であっても、自分の仕事を人ごとのようにしか語れない人がたくさんいます。「他人の言葉」でしか語れない人は、社会的地位がどんなに高くても、魅力的には映りませんでした。なぜなら新聞記者が聞いているのは「その人にしか語れない言葉」だからです。

 本当は誰もが「自分の言葉」をもっているはずです。思いがあるのに言葉にできず伝わらないのは、とてももったいないと思いました。仕事の価値は、相手に伝わることで初めて生まれるものだと思います。自己完結できる仕事はどこにもありませんから。その人の思いをきちんと「伝わる言葉」にすることで、その人の仕事の価値を、それを必要としている人につなげられるのではないかと考えたのです。

本来の価値を見出し、人と人とをつなげる紙面

ーー記者時代の仕事はどう生かされているのですか?

 12年間の新聞記者生活のうち、3年間は紙面編集部(整理部)で働きました。現場の記者が書いた原稿をもとに、紙面を制作する仕事です。

 新聞紙面にとって一番大切なのはなんでしょうか。それは「見出し」です。なぜなら、見出しがわからなければ、記事自体がどんなに良くても、読まれないからです。日経新聞の紙面の見出しは「11文字以内」という原則がありました。記事を生かすも殺すも「たった11文字」なのです。この11文字のために、何人もの編集者や現場の記者が数時間をかけて、何度も何度も激論を交わします。そうした新聞制作の現場で働く中で「伝わる言葉」の厳しさと奥深さが刻まれました。

 「伝わる言葉の大切さ」は新聞記事に限らず、多くの仕事に当てはまると思います。どんなにいいサービスを提供していても、その内容が相手に伝わなければ、そのサービスは価値をもちません。伝わるからこそ、初めて価値を持ちます。弊社が作る「フルエール新聞」は、その人本来の価値を見出し、伝わる言葉にし、人と人とをつなげる紙面だと考えています。

心ふるえる方へ進む人をフルエールしたい

ーー「フルエール」の社名にはどんな思いを込めているのですか?

 フルエールには「心ふるえる」とフルエール(めいっぱい応援)の2つの意味をかけています。

 私自身、大学時代から悩みがちな性格でした。人の目を気にして自分を抑え込むところがあり、自分のことが好きになれませんでした。34歳の時に生き方に悩み、9ヶ月間、精神的などん底に陥りました。

 それを機に、自分自身の価値観を初めて真剣に考えることにしました。それがコーチングとの出会いです。自分自身がコーチングに出会い救われたことから、記者からコーチに転身することを決めました。

 フルエールというのは、コーチである私自身の心からの願いです。自らが心ふるえる生き方をしていきたい。そして心ふるえる方へ踏み出す人を、めいっぱい応援したい。これがフルエールに込めた思いです。

新聞づくりを通じて、気づきと変化を届けたい

ーー新聞を通じてやっていきたいことは何ですか?

 私は単に新聞を作りたいわけではありません。新聞作りを、コーチングの一環として捉えています。

 コーチングの道に入り、対話によって人が変わっていく場面をたくさんみてきました。「対話によってなぜ人は変わるんだろう」ということが、コーチとしての私の尽きない疑問です。なぜなら取材によって「ものの考えが変わった」という人に出会ったことがないからです。コーチの対話と記者の対話の違いには何があるのか、大学院の研究テーマとしても考えていきたいと思っています。

 新聞づくりを通じて、仕事や人生に新たな気づきが生まれ、変化への一歩を踏み出す力になりたいと考えています。そして思いが伝わる言葉になることで、その方に思わぬ出会いが起きたり、人生が広がるきっかけとなる新聞にしたいと思っています。

 コーチングと新聞制作は誰もやったことのないチャレンジです。私自身も心ふるえる方へ進み続けていきたいですね。

早稲田大学を卒業後、日本経済新聞の記者を12年間務める。霞ヶ関の担当記者として官僚、政治家、企業経営者ら各界2000人のリーダーに取材。署名記事は200本、紙面編集の仕事も3年経験した。34歳の時に精神的などん底を経験し、同時期にコーチングに出合う。価値観を見つけて自分自身が変われた経験からコーチに転身。2021年4月に独立。22年11月にフルエール合同会社創業。フルエール新聞編集長。

 米CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブコーチ(CPCC®︎)/京都芸術大学大学院(MFA課程)に在籍