なぜ今「伝わる企業理念」が大切なのか

最終更新日:2021年9月28日

新型コロナ禍で、私たちの働き方は大きく変わりました。会社員の方にとっては、会社に毎日通うというのは、もはや古いしきたりになり始めているのではないでしょうか。私はコーチングに携わりながら、働き方だけでなく、生き方自体を見つめ直したいという声をよく聞いています経営者の方からは、企業経営も何を大事にすべきか考え直したいという声をいただきます。理念がなくてもやっていけた時代と、今の時代、何がいったい違うのでしょうか。

私は今の時代だからこそ「伝わる理念」が必要だと考えています。3つの理由からです。

1.「共感や価値」で選ばれる時代だから
2. 先の読めないVUCA(ブーカ)の時代に入ったから
3. 社外との連携が増えているから

それぞれポイントを押さえて説明します。

1. 「共感や価値」で選ばれる時代に

私たちは、何を基準にいま、サービスやモノを選んでいるのでしょうか。マーケティングの考えがひとつ役に立ちます。

マーケティング界の第一人者である米国の経営学者、フィリップ・コトラー氏は、時代によって人の選択基準が変わることを説いています。現代は、マーケティング3.0以降の時代に入っているといいます(自己実現を重視する4.0や、テクノロジーと人間の共存を説く5.0という最新の理論も提唱しています)。

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マーケティング3.0以降の時代では何が大切なのでしょうか。一言で言えば、その商品がもつ価値や意味を重視するということです。そのサービスを買うことに、どのような意味を感じられるかを消費者は求めていると言えるでしょう。

なぜ「レジ袋有料化」は受け入れられたのか

私が象徴的だと考える一例を挙げます。例えば昨年7月から、ビニール袋の有料化が始まりました。これまで無料だった袋が3、4円かかるようになると、消費者の負担が増えることになります。

しかし、これに対して強い反対意見はほとんどありませんでした。環境省の今春の取りまとめによれば、2020年7月のレジ袋有料化以降、スーパーマーケットなどで受け取りを辞退する人の割合が8割に上るそうです。なぜ、受け入れられたのでしょうか。

その大きな理由としては、「地球環境を守る」という理念があったからでしょう。浜に打ち上げられたクジラの胃から大量のビニール袋が出てきたり、海亀の鼻にストローが刺さったりしている動画を見ることなどによって、自分たちが出したゴミが地球でともに生きる生物を傷つけているということに、心を痛めた方は少なくないと思います。

実際は、ビニール袋やペットボトルもきちんと処理したりリサイクルしたりすれば自然界を痛めることはないわけですが、「レジ袋の辞退は環境保全になる」という理念に共鳴し、行動を変えた人は多いのではないかと思います。最近ではレジ袋をもらうこと自体、後ろめたい気持ちに私はなります。レジ袋の一件を取り上げても、現代に生きる私たちは「価値や意味」を重視していることがわかると思います。

2. 先の読めないVUCA(ブーカ)の時代

新聞などマスメディアに触れていると「VUCA(ブーカ)の時代」というフレーズをよく目にします。ブーカとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の略です。2010年代半ば頃から、国際的な経済会議で出てくるようになった単語です。

個人のキャリアから企業活動まで、先の見通せない時代だということをあらわしています。これはインターネットがあまねく普及したことが背景にあり、さらに昨今の新型コロナ禍で拍車がかかっていると言えます。

一言でいえば「答えのない時代」と言えるでしょう。幸せに生きるために何が正解か、誰にもわかりません。外側をやみくもに探し求めても、自分にぴったりくるものはどこにもありません。「答えのない時代」頼れるものがあるとすれば、自分の内側にある確固たる思いではないでしょうか。

最近では「マインドフルネス」と呼ばれる瞑想に関心が高まっています。大手証券会社ではマインドフルネスを新人研修に取り入れるところもあるそうです。静かな内面への意識の高まりは、激動の社会の反動なのかもしれません。現代は「個の時代」とも言われます。いっそう、一人一人、または一社一社の理念が、荒れる海原においてもまっすぐ立ち風を受け前に進む力を生み出す船の帆のように、欠かせないものなのではないでしょうか。

3. 社外との連携が増えているから

初めに就職した一社で生涯をまっとうする時代ではなくなりました。クラウドソーシングなどで個人個人や、一社一社が連携して仕事で成果を出す時代です。連携するときに、個人や会社が何を大事にしているのか明らかにしているのとそうではないのとでは、仕事の進み具合は違うのではないかと思います。

私自身も独立して仕事をする上で、そのサービスがどのような方によって、どのような理念で生み出されたのか意識するようになりました。なぜその理念を掲げているのかエピソードに共感すれば、その人や会社と一緒に仕事をしたいと思えます。逆に何を大事に仕事をしているのかわからなければ、距離を置きたくなります。よくわからないものは避け、共感を抱けるものには近づきたくなるのは、人付き合いも、会社付き合いも同じなのではないでしょうか。

個人と会社の関係が変わっている現在、企業の大小を問わず、理念を明確にすることが大事になっています。共感を呼ぶ理念が、従業員をひきつける力になるのです。

従業員を含めて理念を大切にすることは、売り上げや利益など企業業績にもプラスになっていることがすでに明らかになっています。例えば中小企業庁による調査の一例では、次のようなデータがあります。

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顧客だけでなく、社員も大切にする企業が、売上も利益も伸ばしているのです。従業員もステークホルダーと捉え、関わる人をみな満足させる意識をもつ企業が、これからの時代の追い風に乗れるのです。

記者時代に多くの中小企業経営者と話しました。「経営理念なんて、大企業がつくるものじゃないの」という声も聞きました。経済が右肩上がりだった時代は、それでもよかったのかもしれません。しかし時代は変わりました。今は一社一社が「なぜこの仕事をしているのか」を語れなければ、選ばれなくなっているのです。

理念の作り方は実はほとんど知られていない

ただ問題があります。実は経営理念の作り方というのは、ほとんど知られていません。ネットで「ミッション」や「ビジョン」で調べてみると、玉石混交の情報が現れます。しかし、本当に的を射たものはあるのでしょうか。

理念で大切なことは、成果に結びつけることです。「絵に描いた餅」の理念では意味がありません。企業活動をしている以上、売上や利益がでなければ存続できないのは当たり前のことです。

では成果を出す理念はどのように作ればいいのでしょうか。事例をもとにこれからご紹介していきたいと思います。

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安倍大資(あべだいすけ)
コーチ・執筆家(元・日本経済新聞記者)
フルエール代表

日経新聞で12年間(2009〜21年)記者として働く。各界のリーダー1000人を取材。300万人の読者に3000本の記事を執筆してきた。

20代前半から約10年間メンタル面の好不調の波に悩む。33歳の時に9ヶ月うつ状態に。人生に行き詰まり、価値観を徹底的に見つめ直すことで長年の悩みを解消した経験をもつ。「人は本当の願いに気づくことで変われる」という実体験からコーチに転身した。

中小経営者向けのクレド構築プログラムを主宰。年30社ペースで、共感される経営理念作りに取り組んでいる。


早稲田大学商学部卒、北九州市出身。

詳細なプロフィール
個人のHP

7月からバンライフで日本一周の旅をしています。仕事をしながらどのような旅をしているのかお伝えします。
10月18日に福島県で講演させていただきました。「300万人から共感される一言づくり〜『ブレない私』になる魔法のカード」をテーマに、マイクレドの作り方をお伝えしました。ライブ配信とあわせて100人以上の方にお集まりいただきました。