日経記者を辞め、経営者向けコーチングプログラムを立ち上げた理由

最終更新日:2021年9月28日

私が代表を務めるFULLYELL(フルエール)は、6月から経営者向けのコーチングプログラムを始めます。「社員やお客さまが共感し、応援される経営者や企業になる」をコンセプトとしたオンライン講座です。この記事では、なぜ日経記者をしていた私がこのプログラムを作り、何を届けていきたいのかをご説明いたします。

1000人の経営者を取材して感じた疑問

私は2009年4月から今年3月まで12年間、日本経済新聞社で記者をしていました。官公庁、大企業、中小企業など約1000人の経営トップの方を取材する機会に恵まれました。

経営者を取材するなかで不思議に感じることがありました。同じ経営者という肩書きの方でも、思わずのめりこむように話に聞き入ってしまう人と、1時間話してもメモを取る手がまったく動かない人がいるということです。

記者の心情として、心動かされる話は記事にして伝えたいと思います。逆に、どんなに立派な大企業のトップでも、どこかで聞いたことのあるような話しか出てこなければ取材後に徒労感が残るばかりです。

内側から出てきている言葉かどうか

話を10分聞いただけで何十行もの記事にしたいと思う人と、1時間聞いても数行の記事にしかならない人、この違いはいったいなんなのかを考えてきました。記事にしたいと思うかは記者の判断によりけりですが、私の場合、12年記者をしてもっとも記事にしがいがあると感じたのは「なぜこの仕事をしているのかを、自分自身の言葉で語れる人の話」でした。

世情を流ちょうに語り、どんな質問にもそつなく答えるコメンテーターのような方は、間を嫌うテレビにはもってこいでしょう。しかし、一対一で話を聞くときに、どこまで目の前の人に響く言葉をもっているかは分かりません。一方で、たどたどしくても、自分の経験から血肉とした言葉を語る人には、聴き手の心に届く深みがあるでしょう。

記者として多くの人の話を聞いているうちに「その言葉が、その人の内側から出てきているかどうか」は、聞き分けられるようになったと思います。私は取材先のその人ならではの言葉を聞き取り、伝えることを記者としてのやりがいに感じていました。

自分の言葉をもつトップに、人が集まる

自分の言葉で語れる経営者には、人が集まることにも気づきました。必ずしもトップに限りません。大企業の事業責任者の方でも、官庁の管理職の人であっても、仕事の意義をきちんと周りに伝えられる人には、それに応えようとする人が集まってきます。

目的に共感し動いている人は、やらされているのではなく、自分から動いているようでした。人を動かすのは人です。心から出てきた言葉は、心に注がれるのでしょう。組織を動かすのはトップの言葉なのです。

記者時代の一通の手紙

記者時代にいただいた一通の手紙があります。栃木県内のテーマパークを運営する企業の社長からです。そのテーマパークは、世界の建築物100点あまりを数十分の1スケールで再現して展示しています。園内にはパリのエッフェル塔やギリシャのパルテノン神殿、クフ王のピラミッド、東京スカイツリーなど、古今東西の建築物がミニチュアサイズで並びます。どうしてこういう展示をしているのだろうと、率直にふしぎに思いました。

社長に取材で直接尋ねました。すると社長はこう言いました。

「著名な建物はどんな時代のものであっても、当時の最新技術が詰められている。いわば人類の英知の結晶だ。人がもつ偉大な力を伝えることが私たちの仕事だ

スケールの大きな答えに、ふるえました。単に有名な建物を小さくしてSNS映えを狙うといったわけではないのです。展示を通して、私たち人の知恵が偉大で、いまを生きる私たち一人ひとりにも何かを創り上げる力があると勇気を届けようとしていることがわかったのです。

社長のメッセージを伝えたいと思い「英知の結晶伝えたい」という見出しで記事にしました。後日、社長から手書きのメッセージが届きました。友人や知人、エージェントから問い合わせがあり、外国人誘客にも大変ありがたいという感謝の手紙でした。目の前の人の思いを伝えることで、社会を動かせることを知った私の原点の経験です。

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(手紙は掲載の許可をいただいています)

コロナ禍で「大事にしたいこと」問い直す時代に

「本当に大事にしたいことは何か」。個人にとっても企業にとっても、大切なことだと思います。とりわけ、コロナ禍でこれまでの当たり前が当たり前でなくなっている今、時代の転機に私たちは否応なく立たされています。

具体的な変化として例えば、2020年度に東京都心から本社を移転した企業は19年度に比べ2割以上増えたといいます。働き方が大きく変わっている今、インターネットに接続していさえすればどこでも仕事ができることに気づいた人は多いでしょう。経営者はもちろんのこと、一人ひとりが選択を考える時期に来ているのだと感じます。こうした有事の時にこそ、大事なことを見直したいと思う人がきっと多いのではないでしょうか。

クレド=大事にすること

私が今月からスタートするプログラムは、一言で言えば「内なる思いを言葉にし、共感を生んで、応援される人や企業になる」内容です。「大事にしたいこと」を、ラテン語で「クレド」と言います。会社では使命(ミッション)、目標(ビジョン)、価値観(バリュー)という言葉があります。この3つをあわせたものを「クレド」と呼んでいます。

言葉を蛇腹折りのカードにしたものを「クレドカード」と言います。胸ポケットサイズで、財布や首掛けストラップにも入れられ、常に持ち運ぶことができます。

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「やり方」ではなく「あり方」を定めるクレド

クレドカードで最も有名な企業のひとつは、リッツ・カールトンです。全社員が常が身につけていると言います。特徴的なのは “We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlmen” というメッセージです。「私たちは淑女、紳士にお使えし、私たち自身も淑女、紳士です」というメッセージです(現代ではladies and gentlemenという言い方は、議論になっていますが)。クレドカードが多くの対応を迫られる現場の拠り所になっていると言います。

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どの企業にも「行動指針」や「マニュアル」といった、似たようにも見えるものがあると思います。クレドカードに書かれていることと何が違うのでしょうか。

行動指針やマニュアルは、一般的に社員を統制するためのツールと言われます。「〜すべき」「〜してはいけない」などと上から下に伝える目線で書かれていることが多いのではないでしょうか。一方で、クレドは社員が自律して働くためのツールという位置付けです。こと細かく指示が書かれているのではなく「私たちはこういう存在です」と分かりやすく書かれています。マニュアルが「やり方」を説いているのに対し、クレドは「あり方」を定めているのです。「感性の羅針盤」という説明もされます。

クレドカードを導入している日本企業も増えてきています。大企業よりも、むしろ中堅、中小企業の方が多いのかもしれません。理念や価値観を共有することで、コミュニケーションがスムーズになったり、判断しやすくなったりするなどといった利点があります。オンラインで実際の場所は問わない時代だからこそ、社長から現場の社員まで皆同じものを持ち、同じ言葉を刻んでいることに、意味があるのだと思います。

共感が企業を伸ばす

どうして理念を言葉にすることが大事なのでしょうか。経営にとってはどのようなプラスがあるのでしょうか。

経営を続けていく上では、顧客から支持されることが肝心です。支持されるためには、企業のサービスに共感されることが欠かせません。とりわけ現代では「マーケティング4.0」と呼ばれる時代(5.0という考えもすでに出ているそうです)になっています。顧客のありたい姿(自己実現欲求)に働きかけることが、支持されるサービスに欠かせません。

単に便利で安いだけで売れる時代ではなくなりました。顧客は「価値や意味」を感じるものを求めているのです。

例えば私がいま拠点とする北九州の繁華街に無印良品があります。先日行ってみると、入り口正面の一番目立つ場所に、下のようなポスターを見つけました。

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Tシャツを購入することで衣類の原料となるコットンの種を育てるというメッセージです。「きょうのお買い得商品は○○」「半額セール中」といったものではありません。環境への意識が高まっている中、買い物によって地球環境をより良くしたいという顧客の「潜在的な良心」に働きかけているのだと思います。それが共感をうみ、結果的に店舗の売り上げにもつながるのでしょう。

大事にしたいことを言語化し、伝えることで、顧客から指示が集まる時代です。共感が企業を伸ばす時代といってもいいでしょう。

知識経営の生みの親とされる一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は、分析を重視する旧来のMBA型の経営が行き詰まっている時代になっていると言います。昨年出版された「共感経営」(日本経済新聞出版社)という著書の中で次のように述べます。

「人は相手に共感し一体感を抱くと、相手の目標が自己の目標と同一化し、達成に向かって強く動機づけられる、と同時に、自発的な自己統制が働きます。未来構成力に富んだ共感型リーダーやイノベーターのまわりには『何がよいことか』という共通善を共有し、共感で結ばれた共同体的な場が生まれます」(野中郁次郎「共感経営」)

大事にしたいことを言葉にする意味とは、他者との共感を生むことで、自分ひとりの世界を超えた新たな展開を呼び起こすことではないかと思います。

「影武者」に悩み続けた過去

このプログラムを作ったもう一つの理由は、私自身の悩み続けた過去にあります。記者になったものの、胸の奥では「自分は本当はいったい何がしたいのか」という思いが離れませんでした。冒頭に書いたような「なぜこの仕事をしているのかを、自分自身の言葉で語れる人」から、自分自身が真逆の人間でした。

なぜ悩んでいたのか。もとをたどると、人生の節目の大事なことを自分で決めてこなかったという思いでした。

私には3歳年上の兄がいます。兄は新聞記者をしています。私が新聞記者になろうと思ったのは、兄の影響です。東京の大学を選んだのも、兄の影響です。高校卒業してからの私はずっと兄の後ろをなぞるように生きていると感じてきました。

記者として働きながら、年々そのコンプレックスは膨れ上がっていきました。30歳を過ぎても、私は兄の影武者のようだという思いが付きまとい続けたのです。自分をあかるく肯定することができず、心はすさみ、34歳の時にその思いに耐えがたくなり、ベッドの上で週末一日中動けないうつ状態になりました。訳もわからず、高校生の時以来の丸坊主にすらしました。「自分は何を大事にして生きてきたのか」。仕事はかろうじでこなしていたものの、家に帰ると真っ暗な部屋でベットの天井を見上げ、終わりのない悩みに明け暮れました。

大事にしたいことを見つけて変わったこと

私はどうして、大事な判断を自分でできなかったのか。それは自分自身のことがわからず、自分で決断できる軸がなかったからです。

精神的どん底にいたとき、インターネットで偶然見つけたのが、自分を知り直すプログラムです。主に20代を対象としたプログラムでしたが、30代も半ばに差し掛かろうとしている私は、わらをもすがる思いで受講しました。

3ヶ月かけて、自分自身が大事にしたいことを徹底的に考え、言葉にしました。価値観やビジョンをはじめて具体的な言葉にしました。私が大事にしたいことは「自然体」であるということ。自然体の意味は、心と頭と体がひとつにつながった状態と定義しました。自分自身は、頭でこしらえた「こうあるべき」という姿に囚われていたことに長く気づきました。それが苦しみの真因だったのだろうと思います。

世間の目ではなく、自分自身が大事にしたいことを言語化したことで、私の人生は間違いなく、大きく変わりました。体調は回復し、服用していた抗不安薬も手放しました。最後の1年間は、霞ヶ関の記者クラブで働ける喜びを感じながら過ごしました。コロナ禍ではありましたが、最後は会社の同僚や取材先50人ほどに直接あいさつをし、600人ほどに退職のメールを送りました。100人ほどの方からいただいた返信メールは、日経記者として働いてきた思い出とともに、私のパソコンに大切に保存しています。

道迷いの時、頼れるのはコンパス

私自身の小さな経験から言えることがあるとすれば、大事にしたいことを言葉にすることは、個人であっても企業であっても、大切なものを大切にして日々を生きるために必要なことだと思います。現代の日本社会は歴史上、もっとも物質的に豊かで、かつ個人の自由が認められている時代です。みんな同じことが幸せという価値観は色あせ、一人ひとりが「何が幸せなのか」を選ぶ時代に入っているのだと思います。

先が見えずVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)とも呼ばれる時代です。山歩きでいえば、山深い奥地で踏み跡の残る道が見えなくなってしまった状態と言えるかもしれません。前を行く人の足跡が見えなくなり、不安な時に、頼れるのは手元のコンパスです。コンパスさえあれば、東西南北の方向は分かります。私自身、アメリカの山で遭難しかかったことがあります。その時に唯一分かっていたのは、北に向かって歩けば山道に出るということでした。コンパスを北に合わせて、祈るような思いで草の茂みをかき分けていくと10分もたたず道に出ました。

道に迷いかけた登山者が最後に頼るのがコンパスであるように、先の見えない時代に生きる私たちが頼りにできるのは、一人ひとりの内側にある価値観という名のコンパスでしょう。

トップランナー2人のサポート

【共感クレド構築プログラム THE CREDO】は立ち上げに多くの方のご協力をいただきました。このプログラムはミッション、ビジョン、バリューを10ステップで言葉にしていく内容です。新講座型のビジネスプログラム作りのトップランナー・小林正弥さん率いるTHEONEに、年初から付き添っていただいています。

5月からはクレド作りのトップランナーであるコンサルタント・生岡直人さんから専門的に学んでいます。淡路島で開かれた先月の合宿では、全国から新進気鋭の経営者やコンサルタント、税理士の方が集い、理念について学び合いました。「理念こそが成果の源」という考えは、きっとよりこれからの時代に受け入れられるメッセージになると確信を得ました。

私のクレドカード

私自身もミッション、ビジョン、バリューを見つめ直しました。先日、言葉が完成しました。ここにご紹介します。

ミッション
内なる思いを伝わる言葉にして、心ふるえる響きを生み出す
ビジョン
常識に挑む300万人とともに、すべての人が自然体でめいっぱい生きる世界を創る

バリューも含めて、クレドカードを作成しました(実物は4日に届き次第アップします)

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このプログラムは10ステップでこのクレドカードを作成し、大事にしたいことを組織に浸透させていく内容です。主に経営者を対象としていますが、ご自身の価値観を見つけていきたい方であればご案内することができます。個人向けのコーチングも6月から始めますので、ぜひご自身の内なる思いを伝わる言葉にしたい方、ご一緒にやってみませんか。

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安倍大資(あべだいすけ)
コーチ・執筆家(元・日本経済新聞記者)
フルエール代表

日経新聞で12年間(2009〜21年)記者として働く。各界のリーダー1000人を取材。300万人の読者に3000本の記事を執筆してきた。

20代前半から約10年間メンタル面の好不調の波に悩む。33歳の時に9ヶ月うつ状態に。人生に行き詰まり、価値観を徹底的に見つめ直すことで長年の悩みを解消した経験をもつ。「人は本当の願いに気づくことで変われる」という実体験からコーチに転身した。

中小経営者向けのクレド構築プログラムを主宰。年30社ペースで、共感される経営理念作りに取り組んでいる。


早稲田大学商学部卒、北九州市出身。

詳細なプロフィール
個人のHP

7月からバンライフで日本一周の旅をしています。仕事をしながらどのような旅をしているのかお伝えします。
10月18日に福島県で講演させていただきました。「300万人から共感される一言づくり〜『ブレない私』になる魔法のカード」をテーマに、マイクレドの作り方をお伝えしました。ライブ配信とあわせて100人以上の方にお集まりいただきました。